店を出て、リナと二人で駅の方に歩き出した。
すると、「恭一。」と後方で呼ぶ声がした。
振り返ると、康太が店の外に立っていた。
リナをその場に残し、康太のもとへ引き返した。
「恭一、今日は悪かったな…、お前がまさかあんな子連れてくると
思わなかったから…、そんな事なら、先に言えよ。」
「そんなの、知るかよ…。」
「惚れてんだろ…?」
康太がリナの方をチラリと見て言った。
「ほっとけよ。」
康太に悟られない様に、そっぽを向いた。
「まぁ、あいつらも内心驚いたと思うよ、許してやれよな。」
「何とも思ってね~し。」
リナがこちらを見て、ちょこんとお辞儀をしているのが見える。
「まぁ、せいぜいフラれないように頑張れよ、じゃあな。」
お互い「じゃあ、」と言って別れた。
帰りの電車は何とか座れた。
リナは気を使って相当疲れたのだろう…、座るなり俺に寄り掛かって
スースー寝てしまった。
それにしても、康太の方こそ何があったのだろう…。
医者の家系で、優秀な兄貴たちからいつも馬鹿にされ、不貞腐れていた
あいつが、親父の口利きで働き出したのには正直驚いた。
康太こそ、好きな女でも出来たのか?とふと思った。
まぁ、彼らと会うことはおそらくもうないだろう…、特に雅也とは。
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俺は大学卒業後も、なかなか定職に就けず、実家で暮らし始めた。
手に職を付けなさいと親に言われ、福祉系の事務や、調理師見習いなど、
手当たり次第やってみたが、どれもすぐに辞めてしまい、長続きはしなかった。
そのうち、実家を追い出され、彼女にもフラれ、何をやっても
上手くいかなくなった。
仲間と毎晩飲み歩き、路上で夜を明かす事も少なくなかった。
そんな頃、雅也からホストをやらないかと誘われた。
そして俺は、歌舞伎町にあるホストクラブで働くことになった。
その店で、雅也はすでにNO.1ホストになっていた。
雅也が色々教えてくれたおかげで、半年後には俺も雅也と並ぶ位の
人気ホストとなった。
そのうち大金を稼ぐようになり、生活も一変した。
初めは雅也も喜んで祝杯を上げてくれたが、やがて彼の太客が
俺を指名するようになってきて、二人の関係が崩れはじめた。
彼は店で会っても、目も合わせなくなったが俺は気にしなかった。
ある晩、店が終わって帰り道に、いきなり数人の男に囲まれて
殴る蹴るの暴行を受けた。
特に顔を蹴られて、あごの骨が折れ、瞼が切れて腫れ上がった。
「いい気になるな」と、俺の腹を最後に蹴った男の後ろに雅也がいた。
暗い路地だったが、店の明かりで一瞬見えた雅也の姿をまだ覚えている。
俺は最後に路上へ投げ飛ばされ、そのまま気を失った。
顔中血だらけになったまま意識が朦朧としているところに、
たまたま通りかかった男性が救急車を呼んでくれた。
その男性が、現在俺が務めている会社の社長だ。