面影…⑮

中編
中編

「今日は有難うございました。」
「リナの事、どうかよろしくお願いします。」
「もちろんです。あとは俺に任せて下さい。」

「リナの言ってた通り、優しい彼氏さんで私達も安心しました。
それでは失礼します。」

そして玄関でリナと彼女達が挨拶を交わし、二人は帰っていった。


リナは玄関のドアが閉まると、その場からソファーに座るまで、
俺の身体にピタリとくっついたまま離れようとしなかった。

「リナ、もう大丈夫だよ…、俺はなんとも思ってないし、なんなら、
こんなに繊細で優しい子なんだって事が知れて、余計好きになったよ。」

「ほんとに?私、ちょっとだけタカヤの事思っちゃったのに…?」

「うん、まぁ、それは俺も男だから、いい気持ちはしなかったけどね。」

「ほら、やっぱり怒ってるんだ…。」

「怒ってないよ、だって、それでもリナは俺の事が好きだから、
たくさん悩んで、本当の事を話そうとしてくれたんでしょ?」

「うん。だって私、結局タカヤには全然ドキドキしないけど、
恭ちゃんのこと考えると、いつだって胸がときめくもの…。」


(いや待て待て、そんな可愛い顔でそのセリフは、反則だぞ…。)

リナはわだかまりを全て親友に説明してもらい、気が楽になったのか、
いつにも増して可愛い女全開で甘えてくる。

俺は必死に理性を呼び覚まし、誘惑と戦っていた。

「そ、そうだ、それで、もうタカヤ君とは話はついたの?」

「え、うん、昨日の夜、香奈達に立ち会ってもらって話したの。
私は、恭ちゃんが好きだからってはっきり言ったら、分かってくれた。」


結子さんの予想は当たっていた。

タカヤは高校の時からずっとリナの近くに居ながらも、自分の気持ちを
打ち明けられずに、胡麻化してきたのだ。

だが、この前突然、俺という存在を知って、彼はやけ酒に走り泥酔した。
友達が止めるのも聞かず、リナに向かって感情を爆発させてしまった。

リナにとっては、ずっと友達だと思っていたタカヤの思いを知って、
一瞬でも情が湧いてしまった自分を、必要以上に攻めてしまい、
俺に対して不要な罪悪感を抱いてしまったという。


そう…、リナは一瞬、俺以外の男に気持ちが動いたのだ。

俺は内心焦っていた。

もし、結子さんが言ったように、リナを密かに想っている奴が、
他にもいるとしたら…。

そんなことを考えるだけでも、気が狂いそうになった。


「あぁ、それにしても今回は、リナから返信が来なくて辛かったよ。」

「本当にごめんなさい、私も今こうして恭ちゃんと一緒に居られるのが
とっても嬉しいし、幸せ…。」

いつもの俺なら、ここでリナを抱き上げ、ベッドに直行しているはずだった。

しかし、今夜はそんな事をしている余裕などない。

「リナ…、」

「なぁに…?」

リナは俺の様子がおかしい事に気付いて、不安な表情になった。

「恭ちゃん、やっぱり怒ってるの?顔が怖いわ…。」

「怒ってないよ…、違うんだ…、俺。」

俺は意を決して彼女の方に身体を向けた。



「リナ、俺と結婚して下さい!」


一瞬、時が止まったのかと思う程の沈黙…。


そして、リナが口を開いた。
「ほんとに…?」

俺は緊張で声が出せずに、首を縦に大きく振った。

リナが見たこともない表情で固まっているのを見て、咄嗟に返事は
後でいいからと、立ち上がろうとした。

その時、リナが勢いよく俺に抱きついてきた。

「いいに決まってるわ、嬉しい!」

その言葉で、俺は全身の力が抜けて、リナと一緒に倒れそうになった。

「あ、ありがとう…。」

危うく泣きそうになったが、なんとか堪えた。

「愛してるよ…リナ。」

そのまま彼女を強く抱きしめた。


***


俺たちは婚約をした。

早速二人で指輪を買いに行き、リナを実家に連れて行った。

父も弟も驚いていたが、それ以上に、母が泣いて喜んでいたのには
さすがに焦った。

そして、結婚するまでの半年間は、怒涛の様に過ぎて行った。

リナの両親が仕事で海外にいる為、挨拶はテレビ電話で済ませた。

そして、結婚式はリナの希望で、二人だけで教会で挙げた。

新居は、リナが住んでいた代官山で、少し広めで手頃な物件が見つかり、
そこに決めた。

新婚旅行はリナが大好きなパリに行った。


全て順調だった。
俺はリナと結婚したのだ…。

あの情けなく、惨めな人生が、リナに出会ったあの日から全て好転した。


やっぱりリナは、俺の女神だった。


こうして俺は、『最高に可愛い女』を妻にした…。