面影…⑭

中編
中編

仕事が終わり、俺は早めに会社を出た。

リナのアパートに向かう途中で、やっとLINEが既読になった。
ここまで来たら、もう返信の有無はどうでも良くなった。

とにかく、リナに会えるまで待つだけだ。

俺はエントランスの階段に腰を下ろし、リナを待つことにした。

あたりが薄暗くなってきた頃、遠くから誰かがこちらに向かって
歩いてくるのが見えた。

リナだった。
一人俯いて、とぼとぼ歩いて来た。

俺が立ち上がると、リナは気が付いて立ち止まった。

「恭ちゃん…、」

リナはそう呟いて弱々しく抱きついてきた。

そして、俺の胸にそっと顔をうずめた。

俺は何も言わず、彼女の長く柔らかな髪を、ただ優しく撫でた。

こうして、このままずっと彼女に触れていたい…。



暫くすると、リナは俯いたまま、「恭ちゃん、来て。」と
俺の手を引いてアパートに入った。


彼女は、輸入雑貨を扱う会社で働いている。

部屋にはお洒落な輸入家具や雑貨がセンス良く置かれていた。
そのせいかリナの部屋は、異国の雰囲気が味わえてとても居心地が良い。

リナがディフューザーをONにすると、アロマオイルの香りが広がった。

俺の部屋とは大違いだ。

それでも最近は、土日にリナが泊まりに来るようになったおかげで、
少しずつキレイになってきた。


彼女はアイスコーヒーを淹れたグラスを持って、俺の横に座った。

リナは暫く居心地悪そうにしていたが、それでも黙って俺の肩に
寄りかかる仕草を見せた。


「はい、忘れ物。」

俺はテーブルの上に、彼女に届けるはずだった髪留めを置いた。

「あ、持ってきてくれたの?ありがと。」

やっとリナの少し明るい声が聞けてホッとした。


でも、俺はやっぱり彼女の口から、きちんと話が聞きたかった。

「リナ、最近何かあった…?」

「……。」

「俺、何度かLINEしたけど既読にならないし、心配してたんだよ。」

リナは困った様子で俯いてしまい、俺はそれ以上何も言えなく
なってしまった。


すると突然、玄関のチャイムが鳴った。

リナも驚いた様子で俺と顔を見合わせたが、立ち上がり玄関を覗いた。

暫くすると、2人の女の子達がリナの後に続いてやってきた。

「友達の香奈と美織、この前話したでしょ…?」

「あ、うん、高校の同級生だったよね。」

俺は急いで立ち上がり、彼女達と初めましての挨拶を交わした。


「今日は突然お邪魔してしまってすみません。」

香奈と名乗る女性が、リナの顔色を伺いながら、俺に向かって言った。

リナが親友だと言っていた彼女は、リナと同い年とは思えない程
大人っぽくて、すらりとした綺麗な女性だった。


「実は、リナ、ここ最近色々あって元気がなかったので、私も心配して
いたんです。今日彼氏さんと会うって聞いて…、たぶん、リナの事だから
上手く話せなくて、逆に拗らせるだろうと思いまして、無理やり押しかけて
しまいました。すみません…。」

「もぉ、香奈ったら失礼ね…、私だってちゃんと説明出来るわよ。」

リナは俺の顔をチラリと見てから、少し顔を赤らめて俯いた。


「俺も最近のリナが気になっていたので、ちょうど今、何があったのかを
聞いていたところだったんです…。」

香奈はそうですかと頷き、リナに向かって「ちゃんと話せた…?」と聞いた。

リナは俯いたまま首を大きく左右に振った。

「香奈が代わりに説明した方がいいかもね。」

美織がなだめるように、リナの肩を擦りながら言った。


リナは、香奈と目を合わせると、諦めた様にコクリと首を縦に振った。

そうして香奈は、リナが俺との連絡を断っていた理由を話し始めた。