軽井沢での挙式から1週間が経った。
そして今朝、武史はシンガポールへ出張の為に出掛けた。
「ごめん、やっぱり新婚旅行には行けそうにないや…。」
昨夜、ベッドに入ると武史が申し訳なさそうに言った。
私は新婚旅行など行けなくても、一向に構わなかった。
時々、映画や食事に連れ出してくれたり、休日に美術館や
クラシックコンサートに連れて行ってくれるだけで、十分満足だった。
「私は新婚旅行なんて行かなくても平気よ。」
「ありがとう…、美香と結婚して俺、ほんとに良かった。」
そう言って私を抱き寄せた。
海外出張に行く前の晩、彼はいつだって、じっくりと時間をかけて私を抱いた。
帰って来るまで俺の事を忘れさせない為だよ、と彼は言う。
「美香は俺だけのものだから…」
武史の優しい声と息遣いが絡み合って私の中に溶けていく。
そして私は、そんな武史が女を抱く姿を…その美しい顔が少し歪む瞬間や、
甘美に浸るその姿を余すことなく堪能し、快楽の沼に身を委ねた…。
……………………
シャワーを浴びて念入りに化粧をし、淡いピンク色のワンピースに着替えた。
そして11時に予約した美容室にいく為、渋谷に向かった。
店に着くと、受付の女の子がすぐにトオル君を呼んでくれた。
「いらっしゃい、美香ちゃん。」
「この間はありがとう、忙しい中大変だったでしょう?」
彼は結婚式の日、私のヘアメイクをする為だけに来てくれたのだ。
「お仕事だもん、なんてことないよ。」
彼はそう言ってニコッと笑った。
落ち着いた雰囲気の店内を彼の後に続いて歩いた。
「髪、本当に切っちゃっていいんだね?」
椅子に座ると鏡越しに彼が聞いた。
「ええ、バッサリとね、新妻風にしてよ。」
「ふ~ん、新妻ね…。」
からかうように笑った彼は、私の長い髪を丁寧に梳かす。
「でもさ、美香ちゃんが言うといやらしいね…。」
耳元で彼が悪戯っぽく言った。