武史とはゆっくり時間を掛けて、お互いの距離を近づけていった。
最初の旦那とは、付き合って半年で結婚を決めてしまった。
もう二度と失敗は許されない…。
武史と1年ほど付き合ったある日、「海外出張で会えない日が多いから、
出来れば一緒に暮らしたい。」と言われた。
それには私も賛成だった。一緒に暮らしてみないと分からない事も
あるからだ。
彼は都心で一人暮らしをしていたが、私の地元、船橋に住むことを
快く承諾してくれた。
「会社まで乗り換えなしで30分だし、問題ないよ。」
そう言って爽やかな笑顔をみせた。
一緒に暮らすことを認めてもらう為に、彼は私の実家に挨拶に来た。
商社マンの彼は、実にスマートな立ち居振る舞いで私の両親を魅了した。
父が携わってきた教育について話し出すと、興味深そうに聞き入り、
時には質問をしたりして会話を盛り上げた。
さらには、父の世代で流行ったであろう音楽や小説などを、
さりげなく話題にして父を楽しませたりもした。
武史は父の心を掴んだ後に、母の作った料理を褒めることも忘れなかった。
和やかな空気に包まれて時間が来ると、武史は、結婚前に一緒に暮らす事に
対しての謝罪に加え、私に対する思いを両親にはっきり伝えた。
武史を駅まで送るために、私も一緒に玄関を出た。
「まるで、結婚の挨拶だったわね。」
何の気なしに言った言葉だったが、彼は真顔で「そうだよ。」と言った。
「俺、本気だから…。」
急に言われて、慌てて言葉を探した。
「あ、あの…」
一瞬、目が合ったがすぐに彼が逸らした。
「それにしても緊張した~反対されたらどうしようかと思った…。」
武史は大きく伸びをしながら安心した様子で言った。
それから約2年間一緒に暮らし、私達は結婚した。
私が30歳で彼が33歳だった。
結婚式は軽井沢の教会で挙げた。
2回目という事もあって、身内だけでこぢんまりと済ませた。
どちらの両親も、二人の結婚をとても喜んでくれた。
一連の儀式が終わり、写真撮影のために教会から外に出た。
「美香ちゃん、とっても綺麗!素敵よ。」
瞳を潤ませたお義母さんが、真っ先に来てくれた。
「美香ちゃん、おめでとう。武史を宜しくお願いしますね」
お義父さんもお義兄さんも祝福の言葉をかけてくれた。
それからお義兄さんの奥さんが、にっこりお辞儀をして、
駆け回る子供を追いかけて行った。
母が、恵美子さんと楽し気に話している姿が見えた。
恵美子さんは兄の妻で、私の1歳年上だ。
少しだけ膨らんだお腹には、二人目が入っている。
私の視線に気付いた母が、満面の笑みで手招きしている。
走り出したい気持ちを抑えて、私は足早に母の元へ向かった。