武史と結婚して初めての正月を迎えた。
同棲中は、それぞれの実家に年始の挨拶に行っていたが、今年は
私達の家に、日高の義父母を招待した。
私はおせち料理を、腕によりをかけて作った。
料理は得意だったし、おせち料理は毎年母と作っていたから、
それ程苦ではなかった。
それよりも、掛け軸や、家の中に生ける花をどんな風にしようかと
あれこれ考える事の方が大変だった。
結局、玄関スペースには大振りな花を大胆に飾り、リビングや和室には
正月飾りと合わせた小振りで可憐な花を生けた。
案の定、義母は家の中をゆっくりと歩き回りながら、掛け軸を眺めたり、
各所に生けた花を一つ一つ見て回った。
「どのお花もセンス良く生けてあって見事ね。特にシンビジウムが素敵!
大胆な生け方が清々しいわ。」
絶賛する義母の言葉に、私はホッと胸を撫で下ろした。
それからテーブルに着き、ゆっくりお酒を飲みながら料理を食べ始めた。
食卓の場を盛り上げるのは武史の役目で、義父母は退屈することなく
食事を楽しんでくれた。
気が付くと、窓の外はすっかり暗くなっていた。
今夜は義父母に泊まって貰う為、奥の和室に寝床を用意した。
「美香ちゃんのおせち料理、美味しいわね~、最近は私、殆ど作らずに
行きつけの料亭で頼んじゃうのよ、もう面倒になっちゃって。」
「まぁ、料亭のおせち料理なんて、さぞかし見た目も豪華で
美味しいんでしょうね。」
「そうね~。でもね、こうゆう家庭的な味は飽きないし、箸が進むのよ。
今年は元旦から大満足だわ、もぉ、来年も来ようかしら。」
「是非、来年もいらして下さい。」
「美香、お袋は本気で言ってるんだ、断るなら今だよ。」
武史が笑いながら言った。
「えぇ、本気よ、明日も泊まりたいくらいだもの。」
義母もムキになって言った後、クスッと笑った。
「ふふ、あ、でも明日は10時頃にお義兄さんが迎えに来るそうです。」
「あら、珍しい、どうしたのかしら…?」
「義姉さんが伊達巻きと栗きんとんを美香に頼んでて、それを兄貴が
取りに来るんだってさ、そのついでだよ。」
「まったく京子さんは人を使うのが上手ね、最近は家が近いのを良いことに、
孫達を私に預けてさっさと食事会やパーティーに行ってしまうんだから…。」
「でもねお袋、外科医の妻も結構、お付き合いが大変らしいよ。」
「わかってますよ、そんな事。それに私だって、可愛い孫達といられるんだし、
別に構わないわ。」
そこで顔を赤くした義父が呟いた。
「あぁ、料理が美味くて少々食べ過ぎた様だ…。」
「お酒も飲み過ぎた様ですね、お顔が真っ赤ですよ。」
義母に指摘され、義父は一旦咳払いをしてから武史に言った。
「武史、良い奥さんを貰ったな…大切にしないとな。」
「もちろん、そのつもりですよ。」
武史が照れくさそうな笑顔を私に向けて言った。
「ところで、今の会社にはいつまでいるつもりなんだ?」
義父が不意に言った。
「うん、まぁ、それについては考えてます。」
武史はそう言ってチラリと私を見た。
「所帯をもってこれから家族も増えるだろうし、いつまでも海外ばかり
行ってるわけにもいかないだろう。」
「武史の事だからちゃんと考えているでしょう。」
義母がそう言って、義父に席を立つように促した。
そして、そろそろ休ませてもらいましょうか、と席を立った。
少し酔った義父は「お休み〜」と上機嫌に挨拶をして、義母と和室に入って行った。
翌朝、二人は義兄の車に乗って帰って行った。
義父母を見送り、私がリビングに戻ると、一足先に戻っていた武史が
ソファーに座って待っていた。