やがて由美子の旦那も帰ってきて、皆で夕飯を食べた。
「僕ね、公園でシュン君と追いかけっこして遊んだんだよ、ママ。」
尚人が嬉しそうに由美子に言った。
由美子が少し驚いた様子でチラリと私の顔を見た後、
「シュン君って、確か、後藤さんの息子さんだっけ…。」と、
独り言のように言った。
私は、由美子の旦那と目が合った。
彼も少し困惑した様子で、私と尚人を見ている。
「そうなの、今日尚君と一緒に遊んでたら、後藤さん親子もいらしてて
一緒に遊んだのよね。」
私は思い出したようにそう言って、慌てて尚人に微笑んだ。
「シュン君も僕と同じ幼稚園に行くって言ってたよ!」
「よかったな尚人、もう幼稚園のお友達が一人出来たな。」
彼は安心した表情で尚人の頭を撫でた。
由美子が何か聞きたい様子で、こちらに視線を向けているのが分かったので、
私は努めてさりげなく、明るい口調で言った。
「そうそう、後藤さんが、入園準備の事とか色々知りたがってたから、
由美子の家に行って聞いたらと言ったら、行きますって言ってたわよ。」
「美香!本当に…⁉ 本当に後藤さんがここに来るって言ってたの?」
「え?えぇ、来るって言ったわよ。」
私は由美子の興奮した様子に一瞬慌てたが、必死に平静を装った。
「これ、彼女の携帯番号、由美子に渡して下さいって預かったから、
都合のいい時にでも掛けてあげてね。」
私は後藤さゆりから預かったメモ用紙を由美子に渡した。
「嬉しい…。」
由美子の口からポロッとこぼれたその言葉を聞いて、私は心底ホッとした。
「あ、彼女とは仲良くなる前に、私が里帰りしちゃったから、連絡先を
知りたかったのよ。」
由美子は嬉しさを噛みしめる様に、メモ用紙をポケットにしまった。
食事が終わり、由美子が尚人を連れてトイレに行っている間、
「美香ちゃん、ありがとう。」
と由美子の旦那が話しかけてきた。
どうやら、私がシュークリームを持って来たあの日が、例の胡桃ちゃん事件の日
だったらしい。
あの日、由美子は公園で母親達から散々非難され、夕方、胡桃ちゃんの家に謝りに
行っていたという事が分かった。
「でも、一人でも味方になってくれるママ友がいれば、由美子の気持ちも少しは
楽になると思うから…、ほんとによかったよ。」
彼はそう言って安心した表情を見せた。
「それにしても、母親同士の付き合いも大変なんだな…今回の事で僕も色々と
考えさせられたよ、ホントに。」
「そういえば滝沢さん、あれ以来早く帰って来てますよね。」
「ははは、美香ちゃんに怒られたし…、それに、なにより今回は由美子がマジで、
心配だったからね。」
そこへトイレから戻った由美子と尚人が笑いながらやってきた。
「パパのお尻にご飯粒がついてる~。」
由美子が指さしながら言った。
「え、嘘だろ?どれどれ、あ、ホントだ、尚人が付けたんだろ~。」
「僕じゃないよ、パパのお尻、汚ね~。」
「あ、汚ね~とはなんだ、こらこら。」
滝沢家に明るさが戻り、私もなんだかとっても楽しくなった。
その夜、家に帰ると早速、由美子の旦那からLINEが入った。
『今日は本当にありがとう、それと、この前行ったカウンセラーが
由美子と相性が良いみたいで、ちょっと高額だけど暫く通うことにしたよ。』
なんだかんだ言っても、彼は由美子を愛しているんだなと思った。
そして由美子も同じく旦那を愛し、信頼して頼っているのだ…。
私は、ふとカレンダーを見つめた。
来週はもうクリスマスだ。
武史は海外出張でニューヨークへ行っていて、今年もクリスマスは帰ってこない。
私はいつもの様にクリスマス・イヴから2日間は実家で過ごす予定だ。
「さて、今年のクリスマスは何を作ろうかな…。」
私は、実家の台所で母と一緒に作る料理のレシピを考えながら、
早くクリスマスが来ないかと、待ち遠しく思った…。