「ばかばかしい…。」
後藤さゆりの話を一通り聞き終わると、思わず心の声が口からこぼれた。
事件というからどんな出来事かと思いきや、単なる子供の喧嘩ではないか。
いや、正確には喧嘩にもなっていない。
彼女の話をまとめるとこういう事だ。
尚人が作った泥だんごを、胡桃ちゃんが面白がって踏みつぶした。
それを見た尚人がやめろと叫んだ。
その声に驚いた胡桃ちゃんが、バランスを崩して尻もちをついた。
そして胡桃ちゃんが「イタイイタイ」と泣き出した。
ただそれだけの話だった。
なのに、ある一場面だけを見た大人が、都合のいいように話を
作り変え騒ぎ立てた挙句、尚人と母親をこの公園から追放したのだ。
「尚くんが胡桃ちゃんを押し倒したって言ったのは誰なの?」
「確か、大騒ぎしてたのがカノンちゃんママ、胡桃ママの
秘書みたいに、いつもくっついて回ってるんです。」
「でも実際はそうじゃないって、どうして誰も言わないの?」
「さ~ぁ、みんな結局、他人事なんですよ。」
私は後藤さゆりの目をじっと見た。
「後藤さん、あなたはその場に居たんですか?」
「私はその日実家の母が来ていて、公園に行ってないんです。」
「そうですか…。」
「でも、もし見てたら、私は本当の事言いますよ。」
後藤さゆりの言葉に少し驚いた。
「あら、どうして? 」
「私、昔から曲がったことが嫌いなんで、って言うと聞こえがいいけど…
空気が読めない頑固者って旦那さんには言われてるんです。」
「そ、そうなんですか…。」
「だから、人間関係でよく失敗しちゃうんです…でも、こんな私に親切に
してくれたのは尚人君ママだけだったから、今回の事すごく悔しくて。」
そう言って彼女は俯いた。
私はそんな彼女に親近感を感じた。
「後藤さん、出来たら時々、由美子の家に遊びに行ってあげて下さい。」
「え、いいんですか…? 行きます!」
「由美子もきっと喜ぶと思います。」
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気が付いた時にはもう、辺りは薄暗くなっていた。
尚人が元気いっぱいに「ただいま〜」と玄関のドアを開けた。
「いったいどこまで行ってたのよ~、お帰り~。」
由美子が安心した様子で尚人を抱きしめた。
「美香、日高さん出張でしょ? 夕飯食べて行ってね!」
尚人が手を洗いに洗面所へ走って行った。
由美子が私に向かって「もぉ~、LINEしたのよ。」と膨れっ面をしてにらんだ。
私は思わず由美子に抱きついた。
「ちょっと、美香どうしたのよ。」
「だ、だって、尚くんと遊び疲れて、ほんと、もう疲れちゃった~。」
何でもよかった…、とにかく由美子を抱きしめてあげたかった。
「そっかそっか、ありがと、ふふふ、お疲れ様~。」
「由美子~…、 疲れたよ~ ……。」
私は由美子に抱き付きながら、馬鹿みたいにふざけた。
そして、今にも涙が出そうになるのを必死にこらえた…。