時空の旅に出る㉞

長編
長編

「あの、由美子が避けられていたって、どういうことですか?」

どうしても納得がいかなかった。

そういえば先月、私は由美子達とこの公園に来ている。
その時はどうだったっけ? あぁ、そうだ…、私はあの日、砂場の縁で
居眠りしてしまったせいで、よく覚えていないのだ。


「実は私、胡桃ママの事を密かに調べていたんです…ママ達にも
聞き込みをしたり…それでいろんな事が分かりました。」

後藤さゆりは話しを続けた。

「以前は公園で遊んだ後、尚人君ママの家にママ友が集まって
お喋りするのが恒例だったんですって…でも、胡桃ママがこの住宅に越して
きてから、様子が一変しちゃったって言うんです。」

さっき、砂場から子供達を一瞬で引き離した女の事だ。

「尚人君ママの何が気に入らなかったのか分かりませんけど、
胡桃ママが、彼女に誰も近づかないように仕向けたんです。」

後藤さゆりの口調が苛立っているのを感じた。

「由美子は人に嫌われるような事はしないわ、
なぜそんな嫌がらせを受けなきゃいけないの?」

隣で大きく頷いて彼女が話しを続ける。

「何を吹き込まれたのか大体察しはつきますけどね。」

「なんなの…?」

「胡桃ママは、人の事をよく観察してそれを利用するんです
…私、胡桃ママに言われたんですよ、尚人君ママが私の事を
『空気が読めない人だから付き合いづらい』って言ってたって。」


「そんな事…、由美子が言うわけないわ。」

「私もそう思います、多分、他のママ達も一番言われたくない事を
そうやって彼女に言われたんだと思います。」

「……。」

私は言葉が出なかった。

「そうやって周りを翻弄するのが上手い人って、いるんですよ。」

彼女がそう言って深いため息をついた。


「由美子は反論しなかったのかしら。」

「それが、ちょうど臨月で体調も悪そうだったみたいで、
あまり公園に来ないまま出産で里帰りされたって…。」

「それで出産後、暫くして尚人君を連れて公園に来たら、
今まで仲良かったママ友達が、一斉に知らんぷりで胡桃ママと
一緒にいたのを見て、相当ショックだったんだと思います。」


「そ、そんな、酷いわ…。」

私は怒りで体が震えた。

「その後、尚人君ママの体調が悪くなって実家に戻ったって聞いて…。」


あぁ、それで由美子の異変に気付いた旦那が、病院に連れて
行ったのかもしれない…。


それにしても、同じく幼い子供をもつ母親が、出産前後の一番不安定な時期と
分かっていて、なぜこんな酷い仕打ちをするのだろうか…。


「それで…、先日の『胡桃ちゃん事件』の話なんですけど…。」

後藤さゆりが、ゆっくりと話し始めた。