日曜日の昼下がり、私は由美子の家で尚人と積み木を重ねていた。
「ミカ、絶対崩すなよ、デカいタワーを作るんだからな。」
いつからか、尚人は私を『ミカ』と呼び捨てで呼ぶようになった。
来るたびに自分の傍にいるこの愛想のない女が、
おそらく家来か召使いに見えるのだろう。
「それにしても美香、よく頑張ったじゃない、恋バナ。」
由美子がクスクス笑いながら言った。
「えぇ、頑張ったわよ。」
「ふふ、夏美さんと美香の会話、一度聞いてみたいわ。」
「由美子ったら、面白がってるでしょ、私は大変なんだから。」
「でも、そんな彼女がどうして美香を気に入ったのかしらね…。」
由美子が、クスクス笑いながら考える仕草をした。
「ほんと謎だわ、私なんか彼女の《良いオモチャ》って感じよ。」
私は由美子の楽しそうな笑顔を見て、少しほっとした。
「ミカ、タワー。」
私のすぐ横で尚人が不満そうに言った。
「はいはい。」
長方形の積み木をそっと乗せた。
「美香、こっちに来てお茶でも飲む?」
赤ん坊が眠っている間にアイロンがけを済ませた由美子が、
両手を上げて伸びをしながら声をかけた。
「ありがと、由美子も休んで、、、」
そう言って立ち上がった瞬間、ガラガラと積み木のタワーが崩れた。
私の足先が尚人の足に触れ、驚いた尚人が倒してしまった。
怒った尚人が積み木を握った小さな拳で、私の背中を何度も叩いた。
それを見た由美子が「尚人、叩いちゃダメ!」と大声をあげた。
その声で寝ていた赤ん坊が泣きだした。
一瞬、由美子が絶望的な表情を見せ、すぐに背中を向けてしまった。
泣きわめく赤ん坊を抱く由美子の背中が、微かに震えているのが分かった。
「そうだ尚くん、公園のお砂でタワー作ろう!」
見ると、尚人が涙を溜めた目でジッと母親の背中を見ていた。
急いで彼の小さな手を握り、公園に連れ出した。
公園に着くと、尚人と同じ年くらいの子供達が楽しそうに遊んでいた。
私は尚人の手を引いて砂場に向かった。
その時、母親達の冷たい視線が一斉に自分達に向いた事に、
私は気付きもしなかった。