「夏美はさっきの原田さんて人が好きなんでしょ?」
夏美の様子に少し戸惑ったが、何か言わないといけないらしいので
とりあえず聞いてみた。
「え、ヤダ~、誰もそんな事言ってないでしょ~!」
突然、夏美の弾けるような高い声が響き渡った。
それでも、夏美の表情が明るくなったので、ひとまず安心した。
しかし、彼女はまだ『何か言って』という顔で待っている。
「でも彼の方は夏美の事好きなんじゃないの?」
先程の原田の様子を見て感じたことを、そのまま言ってみた。
すると夏美は、急に気弱な表情で私の手を握った。
「そ、そうかな~…、ほんとにそう思う?」
夏美の大きな瞳が左右に細かく揺れている。
「え?えぇ、私はそう思ったけど。」
「でも、絶対そんなことないよ、だって、さっきのあいつの態度みたでしょ?
いつもあんな感じで、ほんとムカつくんだから~。」
「ふふっ。」
頬を紅潮させてむくれた顔の夏美が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「あ、笑った、酷~い。」
私は、たった数分の間にクルクルと表情を変える夏美に圧倒されて、
目が離せなかった。
すると突然、夏美は悪戯っ子の顔になって言った。
「そうだ、美香の旦那さん見せてよ、笑った罰だよ。」
面倒な展開になったと思いながら、武史の画像を彼女に向けた。
「うっそ~、めっちゃイケメンじゃん!」
周りの女性社員らが一斉にこちらを見た。
「夏美、声…。」
夏美は暫く画像を見入ってから、急に真剣な顔で呟いた。
「なんか、意外。」
「意外だった?」
「当てるね、旦那さんが先に美香を好きになったんでしょう?」
「え、確かそうだけど…?」
「やっぱりね!」
そう言って私の顔をまじまじと見つめる。
「な、なによ、顔に何かついてる?」
ついさっきまで、恋バナではしゃいでいた夏美が、
突然、大人の女の顔になって私をドキッとさせた。
「美香、旦那さんの事愛してる?」
「ちょっと、いきなり何を言い出すのよ、変な人ね」
トレーを持って立ち上がろうとする私を制して、夏美が食い下がる。
「いいから…、ねぇ、愛してる?」
「夫婦なんだから当たり前でしょ、もうやめて。」
「ごめんごめん、怒らないで。」
夏美がいつもの様にケラケラ笑いだした。
「美香のアイシテル、聞きたかったな~。」
「そろそろ時間よ」
私達はやっと席を立った。
「そうだ、美香、LINEあとで教えてね。」
夏美は軽く片目を瞑ってふざけて見せた。
(そういう顔は彼にしてあげなさいよ、まったく…。)
それにしても、恋をしている女はこんなにも、
キラキラ眩しいものかとため息が出た。
私もあんなふうに、武史に恋をしたのだろうか…。
ふとそんな事を思った自分が、何故か妙に可笑しくてすぐに打ち消した。