12月になり、会社は本格的な繁忙期に入った。
毎年この時期は、クリスマスやお歳暮などのイベント業務に追われる。
「美香、久しぶり~、最近来てなかったよね。」
社員食堂のテーブルに着くや否や、夏美が駆け寄って来た。
「うん、先週はピッキング作業でずっと工場だったの。」
一週間、工場の中を歩き回っていたせいか、両足の筋肉痛が未だ完治していない。
1週間ぶりに会った夏美は、相変わらず私をいじっては楽しそうに
笑っている。
「随分楽しそうですね、吉川さん。」
振り返ると、背の高い細身の男が立っていた。
短髪で、左右に分けた前髪が清潔感を出していた。
「あ、こちら日高美香さん、、私達同期なの。」
夏美が私の方に手を向けて言った。
彼女がこんな風に、社内の人間に私を紹介した事に驚きながら、
急いで彼にお辞儀をした。
「総務部の原田です。確か本社から来られたんですよね。」
「流石、知ってたんだ、因みに彼女は新婚さんなんで
変なちょっかいは出さないで下さいね。」
「おいおい、待ってくれよ、誤解を生む様なこと言わないで欲しいな。」
「あら、それは大変申し訳ありませんでした~。」
「あ、その誤り方もなんか嫌だな~。」
そんなやりとりが終わると、夏美と原田は顔を見合わせて
クスクスと笑いだした。
向こうの方で原田を呼ぶ声が聞こえた。
「じゃあ俺行くね、あとあの件、大丈夫なんでよろしく。」
そう言って彼は食堂から出て行った。
夏美が「やった。」と呟いてチラッと私を見た。
「………………………。」
私は黙ってアジフライ定食を食べていた。
こんな時、どんな態度をとればよいのか分からなかったからだ。
「ねぇ、黙っていないでなんか言ってよ~。」
見ると、居心地悪そうに顔を赤らめた夏美が私を見つめていた。