車内の時計が17:12を表示している。
やっぱり一旦家に帰って、電車で来た方が早かったかな…。
途中で、由美子の大好きなシュークリームを買う為に寄ったケーキ屋が、
予想外の混雑だったせいで、だいぶ時間をロスしてしまった。
やっと、由美子の家の近くにある公園が見えてきた。
もうあたりは薄暗くて、公園で遊んでいる子供は一人もいない。
公園の脇に車を止めて由美子の家へ急いだ。
彼女には来る途中のケーキ屋で、今から行くとLINEをしておいた。
しかし、改めてスマホを確認すると、まだ既読になっていない。
もしかして、赤ん坊と一緒にお昼寝中かな?とも考えてみたが、
夕方のこんな時間にそれはないよね、と打ち消した。
そもそも3歳児の尚人が大人しくしているわけがない…。
不安な気持ちを抱えながら、私はやっと由美子の家に着いた。
だが、インターホンを鳴らすも返答がない。
リビングがある2階部分を見上げてみても、明かりがついている様子はない。
「今日の予定聞いておけばよかった…。」
今日、仕事中に武史から『仕事で今夜は遅くなるから、夕飯はいらないよ』と
LINEが入っているのを見て、私は急遽、由美子の家に行こうと決めたのだ。
暫く待ったが、彼女が出てくる気配はない。
「仕方ないわね…。」
そう一人呟いて、帰ろうとした私の背後から
「美香…?」と由美子の声がした。
振り返ると、赤ん坊をおんぶした由美子と、その横で泣きべそ顔の
尚人が立っていた。
私の顔を見た由美子の顔が、一気に明るくなった。
「来るなら言ってよ、びっくりするじゃない、でも嬉しい~!」
同期の吉川夏美を余裕で負かすほどの甲高い声が、
薄暗い住宅地に響き渡った。
歓喜する由美子のすぐ横で、酷く驚いた顔の尚人が、黙って母親を見上げていた。