時空の旅に出る⑱

長編
長編

トオル君は、私に彼氏ができる度に、どんな男か根掘り葉掘り聞いた。

それから、”こういうタイプの彼氏には、こういうことをしちゃいけ
ないだの何だの” と、事細かくアドバイスをするようになった。

初めはウンザリしながら聞いていたが、驚くほど彼の予測が
当たったので、それからは真面目に聞くようにした。

トオル君は私にとって、初恋の相手から大切な友達に変わり、
やがて、よきアドバイザーとなった。

 

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結婚式のために伸ばしていた髪の毛を、トオル君のハサミが
パツパツシャキシャキと、心地良い音を立てながらカットしていく。

彼は、カットの上手さとルックスの良さで、美容雑誌に何度も
載るほどの”カリスマ美容師”になっていた。

インスタのフォロワーも多く、カットの予約もすぐには取れない。

それでもトオル君は昔と変わらず「美香ちゃんだけ、特別だよ」
と言って、いつだってスケジュールを空けてくれた。


「ねえ、先月のイタリア、A氏と一緒だったでしょ。」

「え…、何で知ってるの?」

トオル君が鏡越しにふざけて睨んだ。

「だって、インスタにA氏の手首が写り込んでたもの。
あのブレスレットのね。」

「ホント?気が付かなかった。」

「ふ〜ん、匂わせかと思ったわ。ふふ、」

「そんなわけないでしょ、もぉ!」

 


トオル君は顔を赤らめて周りをさりげなく見回した。

アパレル経営者のA氏と、彼は1年位前から付き合っている。

トオル君がA氏と呼ぶその男性は、これまで付き合ってきたワイルドな
感じではなく、どこか上品で大人の雰囲気が漂う紳士だった。

突然、トオル君は思い出したように顔をしかめて私に聞いた。

「そんなことより、旦那さんに僕の事ちゃんと話してあったの?」

「え、話したわよ、美容師の友達だって。」

「結婚式の日、美香ちゃんをメイクしている間、ずっと心配そうに
こっちを見てたからさ。」

「あら、それですぐ帰っちゃったの?式にも出て欲しかったのに…。」

「違うよ、僕も居たかったけど、あの後も仕事入ってたから。」


本当はもっと早く、武史にトオル君を紹介するつもりだったが、
武史の海外出張の日と、トオル君の仕事が忙しい時期が重なったりで
面倒になり、そのうち忘れてしまっていたのだ。

「そういえばあの後、お友達って男の人だったんだねって、
少し驚いていたかもしれないわ。」

「ほらね、だからいつも言ってるでしょ、もぉ…。」

「大丈夫よ、武史はそんなことで詰まらない焼き餅を焼くような
人じゃないから。」

鏡の中のトオル君が「はぁ~。」と呆れた顔でため息をついた。

「とにかく、旦那さんにはなるべく早く、僕の事を説明して
おくんだよ、いいね。」

「え、説明って、どんなふうに言えばいいの?」

「だから…、彼は幼馴染で、婚約してる恋人がいるって言えばいいの。」

トオル君は私の耳元で恥ずかしそうに言った。