私の初恋は予想外の形で幕を閉じたが、トオル君とはその後も
『お互いに大切な友達』という関係のまま続いた。
暫くすると彼は口ひげの男と別れ、すぐに別の恋人と暮らし始めた。
彼は恋人が変わる度に、『紹介したいから来て』と私を誘った。
そして、恋人との仲睦まじい姿を私に見せつけた。
なぜいつも、自分の恋人を私に会わせるのかと聞くと、
「なぜって、好きな人の事を友達に話したり、紹介したり、
普通、誰だってするでしょ? だからだよ。」と、
トオル君はあっけらかんとして言った。
私は彼の言う『普通』がよく解らなかったが、そういうものかと
納得することにした。
正直なところ、私はまだ自分の気持ちを整理できないままでいた。
私はいつだって、トオル君の事だけが好きだった。
ただ、あの日、口ひげ男と戯れる彼の姿を見た時の、
あの感覚はいったい何だったのだろう…。
私は少し気分を変えたくなって、大学のサークルに入った。
たいして面白くもなかったが、ずっと一人で、誰とも話さず
過ごすことが無くなった。
お昼休みは、サークルで知り合った女子達と話すようになった。
話題はもっぱら恋人や好きな男のことだ。
私が同じ学部の男子と付き合い始めると、早速彼女達の標的になった。
「ねえ、瀬野さんたらずるいわよ、高原君と付き合っちゃうなんて。」
「ほんと、どんな手を使ったの?教えてよ」
「ふふ。瀬野さんて大人しいけど案外、肉食だったりして。」
「どんな手も何もないわ、向こうから言ってきたんだもの。それに、
私はどちらかというと、お肉よりお寿司の方が好きだわ。」
私は彼女達からの言葉に素直に答えた。
彼女たちは互いの顔を見つめ合い、一瞬、黙ってしまったが、やがて
そのうちの一人が、プッと噴き出して笑い出した。
「瀬野さんて、意外と面白いのね。」
「ほんと、冗談とか言いそうになかったもんね。」
「お寿司は、私達も好きよね、うん、フフフ」
冗談を言ったつもりはないが、まぁ、いいか…。
きっと私はまた、なにか可笑しなことを言ってしまったのだろう。
それでもいい…今はただ、一人でいたくないだけなのだから…。