私はまた、トオル君とメールのやりとりを始めた。
大学の話しをすると、『近くだからお店においで』
と言ってくれた。
私は早速、大学の帰りに彼の美容室に行った。
「東京にすっかり馴染んだみたいね。」
「そうかなぁ…、でも楽しいよ。」
トオル君は、鏡越しに微笑んだ。
「美香ちゃんはこっちに住まないの?」
「えぇ、だって東京、家賃高いでしょ?それに私、地元が好きだから。」
私は、都会で一人暮らしをする事など、考えたこともなかった。
大学では相変わらず友達も作らず、授業が終われば真っ直ぐ家に帰った。
地元に居る時は、由美子と買い物やご飯を食べに行く以外は
ほとんど家に居て、母に料理を教わったり縫物をしたりして過ごした。
「確かに家賃高くてさ、今は知人とルームシェアしてるんだ。」
「…知人って、女の子?」
私はファッション雑誌に目を落としたまま、さりげなく聞いた。
「違うよ。」
「ふ~ん、そぉ…」
私はホッとしながらも、なるべく素っ気ない声で言った。
「そういえば、美香ちゃんて頭が良いんだね、僕知らなかっ…」
「ねぇ、今度、遊びに行っていい…?トオル君の部屋。」
彼の話を遮って、私は思い切って聞いた。
「いいよ、明後日なら午後空いてるから、大学終わったらおいで。」
一旦カットの手を止めて、彼は小声で言った。
「僕が最高に美味しいパスタを作るから、腹ペコで来てね。」
「楽しみにしてるわ。」
そう軽く返事をしたものの、私は内心、飛び上がるほど嬉しかった。
1年ぶりに会った彼は、また一段と魅力が増して、少し遠い存在に感じたけど、
きっと二人きりになれば、また、あの頃の様に幸せな時間が過ごせるはずだと
信じて疑わなかった…。