時空の旅に出る⑭

長編
長編

それでもトオル君は楽しそうだったし、彼と裸でいられる時間が
何よりも嬉しかったので、私は満足だった。

それからも私達は、デートの度に一緒にお風呂に入って遊んだ。

そして私は高校2年生になった。

月のお小遣いでは足りなくなってきたので、近所のコンビニで
バイトを始めた。

学校の成績は絶対に落とさないという誓約書を渡して、両親を説得した。

トオル君は美容師の腕をメキメキと上げていき、ついにその店の
トップスタイリストになった。

美容室で見るトオル君は、私と二人で遊んでいる姿とはまた違った、
大人の色気を放っていた。


彼を目当てに女性客が殺到し、一時は美容室を変えようかと思ったが、
【美香ちゃん、そろそろカットの時期だからね。】と、定期的に
メールが入るようになり、私はその後もずっとトオル君のいる美容室に
通うことにした。


彼のハタチの誕生日に、私はシルバーのピアスをプレゼントした。

「前から欲しいって言ってたから…。」

「ありがとう、凄く嬉しいよ… 大切にするね。」

その頃から彼は、一緒に居ても時々遠くを見つめて、
思いに耽るようになった。

私は、ある日突然、彼が私の知らない世界に行ってしまうような
気がして怖くなった。

冬が来て私の誕生日が来ると、トオル君はディオールの香水をくれた。

「17歳おめでとう、美香ちゃんは匂いフェチだからね。」

そう言って悪戯っぽく笑った。

「いい香りが好きなだけよ、嬉しいわ、ありがとう。」

あと、まだあるんだ、と言って彼は箱を渡した。

開けてみると、ヘアアイロンだった。

「あ、これ、いつも私の髪を巻いてくれる時に使ってるのと同じ…」

「そう、美容師のお薦め商品だよ、使って。」

「どうして…?」

なんとなく嫌な予感がしたけど、聞かずにはいられなかった。

「美香ちゃん、僕ね、年が明けたら東京の美容室で働くんだ。」

「…え、東京…の…、どこ…?」

茫然としながら聞いた。

「渋谷なんだ… ちょっと、遠くなっちゃうね。」

なんとなくこんな事になるんだろうな、と思っていたけど、実際に
彼の口から聞くと、とてつもない寂しさが込み上げてきた。

「じゃあ、東京で暮らすのね…」

「うん、本格的にヘアメイクの勉強をしてみないかって言われて…、
自分の力を試してみたいんだ。」


…… トオル君が行ってしまう…。

「私も、応援してるわ…頑張ってね。」

私は涙が込み上げてくるのを、トオル君に見られたくなかったので、
両手で大袈裟に手を振って、そのまま振り向きもせずに走って帰った。

家に着くと、ただいまも言わずに自分の部屋へ直行し、ベッドに
突っ伏してわあわあ泣いた。


大好きなトオル君と離れて、明日からどう生きろと言うのだ。


私は第一志望校を地元の大学から都内の大学に変えた。
偏差値は少し高くなるが、射程圏内だと担任も背中を押してくれた。


それから1年間、色事は全て封印し、バイトを辞め、スパルタ塾に
通いながら狂ったように勉強した。


そして第一志望の大学に合格した。


私は4月から、大学のある渋谷まで通うことになった。