面影…①

中編
中編

「ケチャップ…ついてるよ、ここ。」

リナは、自分の口元を指でツンツンして見せた。

俺は彼女の顔を見ながら、自分の口元を指で探る。

「ほれっ!」

ケチャップが付いた指を、彼女の鼻先に突き出して見せた。

「もぉ! やると思ったわ、ホント子供ね…。」

そう言って彼女はニヤッと笑って、片方の頬だけエクボを見せた。

「リナはこの後、なんか予定あるの?」

彼女はパスタを巻いたフォークを口元でいったん止め、

「う~ん、何かあったかなぁ~?」

と小首をかしげた。

「何もないって顔だな…。」

「あるかもしれないわよ。」

リナがいつもの様に得意顔で言う。

「僕の部屋、来る…?」

「どうしようかな~…。」

「嫌なら別にいいけど。」

わざとそっけなく言うと、彼女は少しはにかんで
「行こうかな…。」と言う。


付き合って1年経った。

そして俺は、未だこんな風にしないとリナを部屋に誘えない。

何故ならリナは、俺が今まで付き合ってきた女の子達とは
比にならない程、『可愛い女』だからだ。


彼女は部屋に入るなり、転がっているペットボトルを拾い上げた。

「もう、この前掃除したばっかりなのに…。」

そのうち台所のワゴンからスーパーの袋を持って来て、
部屋のあちこちに落ちているゴミを入れ始めた。


俺は、いつもの様にベッドに寝ころんだまま、部屋中を手際よく片付け、
動き回っているリナを、ただじっと眺めていた。


「はぁ、キレイになった! でもこれ、あと何日もつかしら。」

「もって3日ってとこだけど…頑張るよ、サンキュー。」

「ほんと、感謝してよね。」

俺の前で仁王立ちしたリナが、ほっぺを膨らませて睨んだ。

そんなリナの手を握って、強引にベッドの中へ引きずり込む。


彼女はいつだって、初めは両手をバタバタさせて抵抗するけれど、
そのうち、まるで子猫の様に俺の身体に絡みついて甘えてくる。

リナは、その透き通るような白い肌と妖艶さで、俺を容赦なく魅了した。


「私のこと…好き?」

腕の中でリナが聞く。

「好きだよ。」

そう答えると、リナは「嬉しい…。」と耳元で囁いた。

俺は思わず彼女の身体を強く抱きしめる。


この女を絶対離したくない…。


狂おしいほど彼女に溺れていくこの感情を
抑えられなくなりそうで怖くなった。