武史との結婚は私にとって2度目の結婚だった。
最初の結婚は、わずか1年で破局した。
まじめで優しい男だったが、お酒を飲むと豹変した。
付き合っている時は一切お酒を飲まなかったが、結婚して一緒に
暮らし始めると、夕方から酒を飲み、私の帰りが遅いと怒鳴った。
怒鳴るのはやめて欲しいと言うと、胸ぐらを掴まれて突き飛ばされた。
私は毎晩、夫を怒らせない様にする事だけを考えて過ごした。
結婚して1年が経ったある晩、ビールが冷えていない事に怒った夫が
ガラスのコップを投げつけた。
咄嗟によけて、粉々に散らばったガラスの破片を見た時、
初めて自分が異様な状況にいる事に気が付いた。
敷地内に住む姑に事情を話し、実家に帰った。
酒を飲まなければ、優しい夫だったが、こんな生活は望んでいなかった。
離婚をして戻った実家はなんとも居心地が悪かった。
実家を出てたった1年しか経っていないのに、もと居た自分の部屋でさえ、
なんとなく落ち着かない感じで戸惑った。
「実家なんだから気にしないでいいよ」と両親は私を気遣った。
私はそんな両親に迷惑をかけてしまった事を心から悔やんだ。
そして、結婚がしたいという思いだけで突っ走ってしまった自分を恥じた。
離婚して2年が過ぎた頃、武史と出会った。
本当ならその日は、親友の由美子の家で過ごすはずだった。
「え、明日? 4人で飲みに行くなんて聞いてないわ。」
予定を急に変更されるのが苦手な私は、焦って尋ねた。
「ごめんごめん。でもね、美香にとって悪い話しじゃないのよ。旦那の大学時代
の先輩なんだけど、この前たまたま美香の写真見せたら気に入っちゃって。」
「たまたまって、それに私の写真なんかどうして見せたの?」
一体どんな写真を見せたというのだろう、まったくもぉ~由美子ったら。
由美子とは小学校からの幼馴染みで、お互いの事は知り尽くしている。
だから悪意がない事はもちろん分かっている。
離婚して憔悴しきっていた頃、毎日のように連絡をくれて、
傍にいてくれたのが由美子だ。
旦那さんも優しい人で、夕飯を食べにおいでと何度も誘ってくれた。
おそらく優しい夫婦が、いつまでも立ち直れない私を見兼ねて、
出会いの場を提供してくれたのだろう。
「お店は7時に予約してあるんだけど…。」
私の機嫌が治まったところで、由美子が再び話し始める。
「大丈夫、明日は定時で帰れるから。」
「よかった、楽しみね」
まるで自分のことのようにウキウキしている由美子をよそに
「あ~もぉ、明日、何着ていけばいいのよ~」
苛立ちと妙な期待が入り混じった感情でいっぱいになった。