「今日は何月何日だ?」
父が朝起きて、必ず最初に発する言葉だ。
「2月10日よ。」
目の前にあるカレンダーを指さして私は答える。
「あぁ、寒いわけだな。」
布団から起き上がった父は、私が差し出す衣服をゆっくりと
丁寧に身に着けていく。
シャツの袖口のボタンも、自分で器用に留める。
セーターを渡すとシャツが引き込まれないように、袖口を掴みながら
注意深く腕を通す。
若い頃からこうやって服を着ていたのだろう。
身支度を整えて居間に入ってきた父は再び聞く。
「今日は何月何日だ?」
口調もさっきと同じだ。
「2月よ。」
少し面倒になった私は、日にちを省略して言った。
「そうか、もう2月かぁ。」
そう言って父はこたつの上に置いてある新聞に目を移す。
「2月10日かぁ、寒いわけだな。」
父が認知症と診断されて3年経った。
そして、昨年母が亡くなり、父の記憶力はさらに低下した。