時空の旅に出る㉗

長編
長編

「ここに来る前にLINEしたんだけど、既読にならないから心配しちゃった。」

「あら、ほんとに? ごめ~ん。」


いいから入って入って、と上機嫌な由美子に促されて家に入ったが、
家の中は酷く散らかっていた。

由美子にしては珍しい事だったので、私は少し驚いた。

小さな子供がいれば、部屋が散らかっている事くらい
あっても不思議ではない。


ただ、その散らかり方に、私は少し違和感を感じたのだ。


「散らかってるでしょ?ごめんね~、すぐ片付けるから待ってて~。」

由美子は鼻歌を歌いながら、リビングのテーブルに山積みだった洗濯物を、
奥の和室に運んでいる。


辺り一面におもちゃが転がっていて、私は思わず尚人の顔を見た。

尚人が遊び場にしている和室に、おもちゃが転がっているのは分かるが、
リビングや廊下の方にまで物が散乱しているなんて、由美子の家では
あり得ないことだった。


尚人は黙って自分のおもちゃを拾い始めた。


転がっているのはそれだけではなかった。

赤ん坊をあやすのに使うガラガラや、丸まったおむつまでが、
リビングから台所につながる通路に転がっていた。


「シュークリーム買って来たから食べてね。」

尚人に言うと、彼はコクリと首を縦に振っただけだった。


由美子は赤ん坊をベビーチェアーに乗せた後、
「嬉しい、シュークリーム大好き!」と、私に飛びついてきた。


「今すぐお茶淹れるから、座ってて。」

そう言って由美子は台所に入っていった。

「お皿、持っていくわ。」と、私も後に続いた。


台所のシンクには、おそらく朝食分からと思われる量の食器が、
洗われないまま残されていた…。


暫くして、由美子の旦那が帰ってきた。
彼は私の顔を見て何かを察したようだった。


みんなでシュークリームを食べていると、由美子が言った。

「私、今夜はラーメン食べたいわ、いいでしょう?」

旦那がもちろんいいよと言って、私に『行こう』と目くばせをした。

近所にあるファミリー向けのラーメン屋で、由美子は大好きなタンメンを
本当に美味しそうに食べていた。


私は、「夕方どこに行ってたの?」と聞きたかったが、いつもより
大人しい尚人の表情が気になって、聞くのをやめた。

その夜、由美子の旦那から、
『来月、知り合いが紹介してくれたカウンセラーに会ってくるよ。』
とLINEが入った。


私はそれを見て、ほんの少しだけど安心した…。