「ベトナムの雑貨ってどれも可愛いわね~、刺繍も素敵!」
「あら、このお菓子美味しそう、尚人もきっと食べられるわね~」
ベトナムの土産が並んだテーブルの前で、由美子はまるで
少女の様にはしゃいでいた。
「先輩、いつも気を使って頂いてほんとに有り難う御座います。」
由美子の旦那がそう言って、膝の上の尚人にお菓子を持たせた。
「それより滝沢君、悪かったね、日曜日は仕事なのに押しかけちゃって。」
「この人ったらいつも仕事優先で、有休も滅多にとってくれないのに、
日高さんが来るって言ったら、すぐ半日休暇とったんですよ~。」
「あ、それはどうなのかな? こんな素敵な奥さんを泣かせるなんて。」
「先輩、そりゃないですよ、僕だって家族サービスちゃんとしてますよ。」
何も知らない武史にいじられながら、由美子の旦那がチラリと私を見た。
「そうだ由美子、オーブン貸して、春巻き温めるわ。」
私は、春巻きとポテトサラダを持って、台所へ向かった。
「美香、作って来てくれたのね、サンキュー。」
由美子が追いかけてきて、私の背中に飛びついた。
「コロッケのお礼よ、ポテトサラダ、このお皿に盛り付けちゃうね。」
由美子のテンションにつられて、私もなんだか楽しくなってきた。
「海苔巻きと、スープは作ったから、これでみんなでお昼にしましょう!」
由美子が嬉しそうに言った。
こんなに上機嫌で明るい由美子がうつ病?
出来れば、由美子の旦那の作り話であって欲しい…。
「美香、尚人のフォーク持ってきて~、その辺の引き出しにあると思うから。」
先に料理を運んで行った由美子の明るい声が聞こえる。
「はいはい、えっと、どこの引き出しだっけ、と。」
確か先週はこの辺にあったはず、と開けた引き出しの奥に、白いものが見えた。
そっと取り出してみると、メンタルクリニックの薬が入った袋だった。
「あった? フォークはあっちの引き出しだよ。」
びっくりして振り返ると、赤ん坊を抱っこした由美子の旦那が立っていた。
リビングからは、由美子の明るい笑い声が聞こえる。
きっと武史がいつものように冗談を言って、由美子を笑わせているのだろう。
「美香ちゃん、またいつでも遊びに来てあげてね…由美子、喜ぶからさ。」
「もちろん、私もそのつもりですよ。」
私は彼の顔も見ずに、そう答えた。
由美子が苦しんでいたのも知らずに、私はいったい何をしていたのだろう…。
私は、唯一の親友が辛い時に、傍にいてあげられなかった事を心底悔やんだ。
「美香、早くおいで~」
「ごめん、いま行く。」
尚人のフォークを持ってリビングへ向かった。