私は結婚してから暫く、本当に慌ただしい日々を送っていた。
挙式を身内だけで済ませてしまったので、日高家の親戚を招待
してお披露目会を開いた。
お披露目会は無事に終わり、武史はその翌週、海外出張の為
ベトナムに行ってしまった。
私は暫く、貯まった有給を使い、好きな料理や縫物をして
ゆっくり過ごそうと思っていた。
そしてなにより、お稽古にも早く行きたかった。
結婚式などで忙しかったので、しばらく休んでいたのだ。
2年前に武史と同棲を始めた頃、母が突然、半ば強制的に
お茶と生け花を習わせた。
母にとっては、単なる『娘の花嫁修業』だったのだろうが、
思いのほか私は夢中になり、家族を驚かせた。
武史と暮らすマンションは、二人で暮らすには十分に広かった。
内装も洒落た造りになっていて、玄関や廊下、リビングなど
いたるところにアルコープがある。
私はそのくぼみに、掛け軸や絵画を飾ったり、花を生けた。
やがて、家の中はいつも季節の花でいっぱいになった。
そうだ、久しぶりに行きつけの花屋にでも行って来ようと
思ったところに、義母からLINEが来た。
あぁ、しばらく忙しくなりそうだわ…。
私は花屋に行くことは諦め、翌日の、日高の家に行く準備に
取り掛かった。
武史の実家は世田谷の閑静な住宅地にあった。
「美香ちゃん忙しいところごめんなさいね、私のお友達が
武史の奥さんをどうしても見たいって言うのよ。」
奥の茶室には、もう客人が待っていた。
私は待たせて申し訳ないと謝ると、今日は難いことは無しね、と
義母がフォローしてくれた。
私は日高の嫁として、彼女達に茶をたてた。
「素敵なお嫁さんを貰って羨ましいわ、お着物も素敵ね。」
「この絞り染めは、義母から頂いた着物なんです。」
「まぁ、素敵な関係でいらっしゃるのね。」
「そうよ、私が嫁いびりをしてるとでも思っていらしたの?」
そう言って、義母達は楽しそうに笑っていた。
茶会も無事に終わり、帰り際に「美香ちゃん、またお願いね。」と、
すっかり機嫌を良くした義母が言った。
その後も義母は、知人や恩師にも紹介したいと言い出し、食事会やお茶会などに、
私を何度も連れて回った。
挙句の果てに、義母の着付け教室で開催した『着物ショー』とかいうイベントに
呼び出され、モデルまでやる羽目になった。
私が内気で人見知りなのを知って、義母はなるべく少人数になるように
取り計らってくれた。
ようやく義母からの誘いが落ち着いてくると、私は久しぶりに
親友の由美子に会いたくなった。
結婚式の1か月ほど前、由美子が二人目を出産したと旦那さんから連絡を貰い、
病院にお見舞いに行ってから会っていない。
由美子の家でのんびりとしながら、昔のようにダラダラしたくなった。
私は早速、『日曜日に遊びに行くね』とLINEを送った。